【追加】文科省有識者会議「科学の再興に向けて」提言を読み解く〜博士増加への懸念

文部科学省の有識者会議がまとめた「科学の再興に向けて」は、科学技術立国としての危機感を背景に、博士人材の拡充や研究環境の改善を強調しています。しかし、提言を読み解くと「博士を増やせば日本の科学は再興する」という単純化に陥る危険性も垣間見えます。本稿では、提言の要点を検証しつつ、どこに問題があり、どこが解決の糸口になり得るのかを整理します。
榎木英介(カセイケン代表) 2025.11.14
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 今回は文部科学省の有識者会議が出した「科学の再興」に関する提言(案)を読み解きます。とくに、榎木やカセイケンが長年追っている博士号取得者のキャリアパス問題を掘り下げます。以下に提言案の概要や本文、その他関連資料が出ています。

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2025年11月21日追記

 提言が確定し、案が取れました。

 変更点は少なく、基本的に記事の趣旨は変わりません。以下に変更点をまとめます。

【A】大枠の内容・構造 → 完全に同一

 方針の転換・追加施策はゼロ。

【B】案の黄色ハイライト部分 → すべて採用し正式文書化

【C】表現の調整・接続語の整理 → 大量(ほぼ全ページ)

 読みやすさ・行政文書の統一性を整えるための修正。

【D】文言の強化(「〜すべき」→「〜する」) → 全体に多数

 確定版らしい「実行度を高めた文」に書き換え。

【E】政策の追加・削除 → なし

 このため、記事のタイトルから案を外しました。以下の記載には案が残っていますが、案を外してお読みください。

■ 提言「科学の再興に向けて」概要

 今回の提言案では、以下の点が中心に据えられています。

  • 博士人材の拡充(博士課程進学者数の回復)

  • 研究者の雇用安定化・中長期的ポストの確保

  • 大学の基盤的経費の強化と産学連携の拡大

  • 若手研究者の挑戦機会の確保

【資料2-1】科学の再興に向けて 提言(案) 概要

【資料2-1】科学の再興に向けて 提言(案) 概要

 とくに博士号取得者の増加について、提言案から引用します。

優れた科学技術人材の継続的な育成・輩出 魅力的なキャリアパスの確保に向けて、多様な場・機会における科学技術人材の育成・活躍促進や、各教育段階における人材育成機能の更なる強化を図る観点から、人件費がコストであるという考え方を変えて科学技術人材に対する投資を抜本的に拡大する。特に、博士人材は、深い専門知識や国際性、課題設定・解決能力などの汎用的能力を備えた高度人材であり、アカデミアのみならず、多様な場で活躍することが期待される人材であることから、2040 年までの3倍を見据え、博士課程入学者及び博士号取得者の大幅な増加を目指す。 (博士課程入学者数及び博士号取得者数︓2030年度末までに2万人(2020年度入学者数実績14,659人、2020年度取得者数実績15,564人)、科学技術人材に対する人的資本投資︓2035 年度末までに倍増(2025 年度予算 3,431 億円︓科学技術人材施策パッケージ)) 同時に、博士課程学生に対する雇用・給与の在り方を含め、研究大学群を中心に支援の拡充を進める。 


 博士3倍増はすでに出ている政策で、提言はその方向に沿っています。

 提言の方向性は、他の部分では理解できるもではあります。しかし、博士号取得者の数に関する提言を読むと、博士号取得者を増やすという人口政策的発想が前面に出すぎている印象があります。

■ 現状:博士進学者が減り続ける理由

 日本で博士を目指す若者が減っている主な理由は以下だと言われています。

  • 学術界での ポスト不足 と 雇い止めの常態化(過去記事参照

  • 進学しても 経済的に割に合わないキャリア構造

  • 企業側が博士を採用してこなかった歴史

  • 研究費・基盤経費の長期停滞

  • 研究者の働き方の不安定さ・過重労働

 これらの土台が変わらないまま博士を増やせば、競争は激化し、若手の消耗を招くだけではないでしょうか。

 以下の有料部分では、さらに掘り下げます。キーワードはAIです。

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