科学と社会の接点を読む(2025年11月第3週版):国立大運営費交付金問題、人材育成タスクフォー始動、大学再編の透明性、学術会議選考委員決まる

Science Communication News No.1151からの記事ピックアップ。大学改革・研究基盤・研究者キャリア・AIガバナンスを中心に、科学政策の重要動向を整理しました。国立大運営費交付金問題、大学病院の研究時間不足、大学再編の透明性、研究費不正、AI利用規程整備など、学術を支える制度の転換点が浮き彫りになっています。
榎木英介(カセイケン代表) 2025.11.23
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 1151号から、日本の大学改革・研究基盤・AIガバナンス・研究倫理など、科学政策の根幹に関わる動きなどを取り上げます。国立大学の交付金問題、大学病院の研究時間不足、大学再編の透明性、研究費不正、AI利用ルール整備など、研究者キャリアにも直結する重要テーマが並んでいます。科学と社会の接点が大きく揺れる今週のニュースを、ぜひ深掘りしてお読みください。

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1️⃣ 文科相「国立大の交付金は増額が必要」──財務省に対し異例の反論

  文科省が財務省に反発していることは、個別記事で解説しました。

 文部科学大臣が記者会見で、国立大学の運営費交付金について「増額が必要」と明言。大学の老朽化、研究時間不足、医療系大学の逼迫など、これまで大学側が訴えてきた構造問題が政府レベルで可視化されつつあります。大学研究力の回復に直結する重大ニュースです。

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2️⃣ 国立大学病院の研究機能が危機に──医師の研究時間“週5時間以内”が6割

 国立大学病院の経営悪化が続き、医師の研究時間が著しく削減されています。「臨床・研究・教育」の三本柱が崩れつつあり、日本の医学研究全体の競争力低下が懸念されています。若手医師のキャリア形成にも深刻な影響が及びます。

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3️⃣ 人材育成タスクフォース始動──教育から博士キャリアまで一貫改革へ

 文科省が立ち上げた新タスクフォースが、高校教育・大学教育・博士課程・就職支援までを一気通貫で見直します。これは日本の研究者キャリア形成の「構造的問題」を正面から扱う初の本格政策であり、今後の大学制度改革の中心となりそうです。

 その一つが私立大学の理工系学部を拡大するための基金を大幅増額すること。高校の理系教育との連動改革も進み、大学進学から博士課程までの「シームレスな育成ライン」が整備されつつありますが、批判もあります。

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4️⃣ 国立大学の老朽化が深刻──研究と教育を支えるインフラが限界に

 国立大学の施設老朽化が全国で深刻化しています。外壁崩落、漏水、空調故障など、研究や授業が継続困難になるケースも報告されています。長年の運営費交付金削減の影響が蓄積し、研究基盤の劣化が顕著です。安全性の確保、施設整備費の安定化など、大学インフラ政策の抜本的見直しが求められています。

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5️⃣ 大学の「財務投資化」が加速──地方国立大まで資産運用に踏み込む時代へ

 旧帝大だけでなく地方国立大学でも、資産運用(エンダウメント運用)が広がっています。背景には、基盤的経費削減と競争的資金の偏重があります。稼がないと生き残れない大学の現状を示すニュースです。大学が投資リスクを抱える時代となり、研究基盤の安定性に新たな課題が生まれています。

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6️⃣「家政学部に幕」──日本女子大学が大規模再編、専門学部を分離へ

 120年以上続いた家政学部が学部改組により終了します。専門性を高める再編は評価されつつも、大学のブランド継承、学生募集戦略、人材育成の方向性など、大学改革の難しさが浮き彫りになりました。大学再編の象徴的事例です。

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7️⃣ 静岡大学の「密室協定問題」──大学統合をめぐる情報公開の欠如が批判に

 静岡大学と浜松医科大学の統合協議をめぐり、報道陣締め出しの不透明な手続きが問題視されています。大学再編における情報公開・透明性という科学コミュニケーションの基本原則が問われています。

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8️⃣ 研究不正:島根大学で公的研究費の不正使用──内部通報が契機に

 島根大学医学部附属病院で、公的研究費の不正使用・還流が発覚し職員が停職処分となりました。内部通報が明らかにした構造的問題で、研究倫理ガバナンスの再構築が求められます。

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9️⃣ 高校生の研究倫理教育に大きな課題──探究学習時代の“新しい不正”

 探究活動でのデータ捏造、AIの不適切利用など、高校生段階の研究倫理問題が増加しています。研究者キャリアの“入口教育”として、大学との連携が不可欠になっています。

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🔟 科学出版の未来:Wiley社が「AI利用ガイドライン」を公表──研究実務に直結

 AIによる論文執筆や査読支援が拡大する中、Wileyが学術界向けのAI利用ガイドラインを策定しました。研究倫理・オープンサイエンス・査読の質保証など、学術コミュニケーションの基盤を左右する重要動向です。

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