科学と社会の接点を読む(2025年10月最終週版):感染症リバウンド、日米技術協定、学術会議総会
科学と社会の境界線で、「制度」と「信頼」が再び問われています。今週の『Science Communication News』(No.1148)から、重要20本を整理し、最後に学術会議の総会を詳しく読み解きます。
■ 今週の注目トピック(無料版10本/有料版10本)
一般社団法人カセイケンが毎週一回発行しているメールマガジン、サイエンス・コミュニケーション・ニュース。
10月29日に発行した1148号から、20本のニュースをピックアップし、解説します。10本は無料公開しますが、のこりの10本は有料とします。
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1. 北海道白老町の養鶏場で高病原性鳥インフル疑い
今季国内初の疑似患畜が確認され、約46万羽の殺処分が進行。防疫対応は「初動の迅速さ」と「地域連携の透明性」が鍵。食品安全と感染リスクの線引き、情報公開の手順を事前設計しておくことが重要です。行政・メディア・消費者の三者協調が問われます。
2. “This ‘minor’ bird flu strain has potential to spark human pandemic”(Nature)
小規模なウイルス株でも、人への感染拡大の可能性を警告。Nature誌が「宿主範囲と変異速度の監視」を国際課題として提起しました。日本も動物衛生・公衆衛生の統合的サーベイランスが必要な段階に来ています。
3. インフルエンザ患者数 前週比1.4倍増(NHKニュース)
37都道府県で感染拡大。免疫負債と季節パターンの変調に加え、マイコプラズマ肺炎や百日せきなど複合流行の兆し。学校・職場での出席停止基準や検査の運用改善、耐性菌対策を一体化する必要があります。
感染症の最新情報は以下から。
4. RIETI:オミクロン期の病床利用
医療機関の所有形態別に病床利用率を分析。公立・民間間の稼働格差が明確化しました。感染症だけでなく災害時医療の病床配分を再設計するための貴重なエビデンス。平時の備えを制度に組み込む好材料です。
5. 南海トラフ巨大地震、二つの発生確率を併記(Science Portal)
地震調査委員会が「二重確率表記」を導入。確率と危険度の誤読を避ける試みで、科学的リスク表現の刷新例。防災広報では「数値」より「行動」につながる情報設計が求められます。
6. 日米「先端7分野」協力の覚書(内閣府)
AI、6G、量子、核融合などで包括協定。技術・人材・安全保障を横断する“技術繁栄ディール”。標準化や人材交流の実装が次の焦点です。科学外交の現場力が問われます。
7. H3ロケット7号機 打上げ成功(文部科学省)
HTV-X補給船の分離まで完全成功。失敗を経た再挑戦で技術信頼を回復しました。宇宙政策を教育・産業・外交に広げる“見せ方”の設計が今後の鍵です。
8. 柏崎刈羽原発6号機「健全性確認」完了(読売新聞)
再稼働に向けて技術的前進があった一方、作業事故や安全文化の課題も続出。リスクコミュニケーションを「工学的安全」+「組織文化」の二層で再構築する必要があります。
9. 日本学術会議 第195回総会
法人化後初の総会で、ガバナンス設計と2本の新提言を発表。ジェンダー平等と気候危機対応を中心に、学術の公共性と独立性をどう両立させるかが焦点となりました。
10. 千葉工大「雇い止め無効」東京高裁判決
前回記事で詳しく解説しました。研究員の雇い止めを「不当」と認定。有期雇用・任期制の見直しが全国の大学・研究機関に波及しそうです。理研の和解とあわせて、研究者の安定雇用をめぐる転機となりました。