科学と社会の接点を読む(2025年12月第1週版) AI、研究基盤、大学、研究公正が同時に動くとき

今週の動きは、AI政策、研究基盤、大学制度、研究公正の課題が同時に進行していることを示していました。欧米中でAI政策が再編され、研究評価や学術情報基盤ではCNRSの決断が象徴的です。国内では大学制度改革が進む一方、公正性やガバナンスに関する事案も続いています。今回は無料版10本、有料版10本の計20本を選び、200字解説を付して、これらの出来事をつなぐ構造変化を読み解きます。
榎木英介(カセイケン代表) 2025.12.07
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1. EUがAI法の適用延期を提案 規制中心路線の修正へ

  EUは長らく「世界でもっとも厳しいAI規制」を特徴としてきましたが、産業競争力とのバランスを再考する局面に入りました。高リスクAIの一部適用を延期する案は、AI技術の急速な変化に法制度が追いつかなくなりつつある象徴と言えます。規制一本槍ではイノベーションを阻害する可能性が高いとの懸念が内部でも高まり、柔軟性を持つ制度への移行が進んでいます。日本もAI基本計画を進める上で、規制と競争力の両立という課題が避けて通れません。

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2. JSTがGRANTS Dataを公開 日本版研究データ基盤へ大きな一歩

 公的資金研究のデータが整理され、横断的に参照できる基盤が整い始めたことは、研究評価や透明性向上に直結する重要な動きです。これまで日本の研究情報は省庁ごとに分散し統合されていない状態が続いていましたが、今回の取り組みは研究行政の可視化とデータ駆動型政策の第一歩と言えます。米国のResearch.govやEUのOpenAIREと比較するとまだ萌芽期ですが、ここからどこまで拡張できるかが研究力政策の土台を左右します。

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3. CNRSがWeb of Science契約を終了 評価指標中心主義への反旗

 世界最大級の研究機関CNRSがWeb of Scienceとの契約を終了したことは、学術情報流通と研究評価に大きな波紋を広げました。研究評価を特定データベースに依存するモデルは長年批判されてきましたが、主要研究機関が実際に離脱したことで、評価文化そのものが変わる可能性があります。フランスでは研究者の自律性や多様なアウトプットを重視する方向へ政策が進みつつあり、ジャーナル偏重の評価体系からの脱却が現実味を帯びています。これは日本にとっても無関係ではありません。

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4. トランプ政権のGenesis Mission 国家AI基盤の構築が加速

 Genesis Missionは、行政データ、AIモデル、国家安全保障を統合する巨大計画です。米国が国家主導でAIインフラを構築する姿勢を明確にしたことで、民間主導を軸としてきた従来の路線から大きく転換しています。特に行政業務のAI化を国家的に推進する点は、AIが社会インフラ化する時代を強く意識したものと言えます。日本では行政のデジタル化そのものが遅れており、この差が中長期的な政策競争力の差として現れる可能性があります。

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5. 中国のAIガバナンス強化 スマート社会への国家的統合戦略

 中国は「デジタル化」から「スマート化」への政策転換を行い、AIを社会システムに組み込む段階へ進みました。これは単なる規制強化ではなく、経済・行政・安全保障をAIで統合する国家戦略です。欧米がAIモデルや規制をめぐって揺れる中、中国は標準化と社会実装を急速に推進しています。この構造が国際競争でも有利に働き、AIガバナンスの国際標準争いで存在感を増す可能性があります。

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6. 東大病院の贈収賄事件 日本の産学連携制度の構造的脆弱性

 企業との関係性が複雑な医療機器分野では、制度そのものが利益相反を生みやすい構造を持っています。今回の事件は、奨学寄付金制度や企業寄付の扱いが十分に整理されていないまま拡大してきた歴史を照らし出しました。研究力強化と産学連携を進めるためには、公正性を担保する透明なガバナンスが必須ですが、日本では制度整備が十分といえません。国際的には利益相反管理が高度化しているだけに、制度改革が急務です。

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7. 国立国会図書館の開発委託先で情報流出 サイバー攻撃でシステム情報が盗まれる

 既報ですが、国立国会図書館が開発中のシステムについて、委託先企業がサイバー攻撃を受け、ソースコードなどの内部情報が流出した可能性が報じられました。公的機関が扱う情報の多くは研究・教育・行政の基盤となるもので、今回のように委託先を狙われるケースは国際的にも増えています。研究機関は高度な研究データや利用履歴など価値の高い情報を持つ一方、サイバー投資が遅れがちなため標的化しやすいという弱点があります。研究公正や学術データの信頼性も脅かされるため、情報基盤整備と防御体制の抜本的な見直しが必要になっています。

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8. Natureが指摘 研究評価をチーム単位へシフトする国際潮流

 研究成果を個人単位で測る従来モデルは、学際化や大規模共同研究が標準になった現在では限界が明らかになっています。Natureの記事は、世界的に「チーム科学」への移行が進み、評価制度も変わらざるを得ないことを示しています。日本の研究評価は個人業績指標が中心で、改革の遅れが研究力の足かせになる可能性があります。今後は研究者の役割や貢献を多様に測定する仕組みが求められます。

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9. EUポスドク市場の改善策 キャリアの分断構造をどう埋めるか

 欧州のポスドクは雇用の不安定さと採用の競争率の高さから「キャリアの谷」が深刻化しています。EUはこの問題に対し、産業界との接続を強化し、多様なキャリアルートを制度として整備する方向へ動いています。日本でもポスドク問題は国際比較しても改革の遅れが際立ちます。研究人材を国家資源として扱う視点が欠けていることが根本的課題です。

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10. 中国の神舟22号が宇宙ステーションに無人ドッキング 宇宙政策の成熟を示す

 宇宙開発の常態化は、科学技術基盤の成熟と国家戦略の一貫性を示します。米欧が宇宙政策をめぐって揺れる中、中国は有人・無人双方のミッションを安定的に遂行し、科学実験のプラットフォームとして宇宙を活用しようとしています。宇宙分野の投資は安全保障と経済競争力にも直結するため、アジア地域の勢力図が変化しつつあることを象徴するニュースです。

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