福島大学の「動画騒動」と学術発信のあり方

学歴系YouTubeチャンネルが福島大学の放射能研究をやゆし、大学が声明を出し、文部科学大臣と復興大臣までが言及する事態になりました。ほぼ同じ週、日本学術会議はALPS処理水の海洋放出について「安全性の評価を示すだけでは十分と言えない」とする見解を公表しています。この二つを並べて読むと、科学だけでは答えの出ない問いに、学術機関がどう向き合うかという課題が見えてきます。
榎木英介(カセイケン代表) 2026.09.13
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一本の動画から、大臣答弁まで

 二〇二六年八月二十八日に公開された一本の動画が、二週間で文部科学大臣と復興大臣の記者会見にまで届きました。

 学歴をテーマにしたYouTubeチャンネル「wakatte.TV」が福島大学を訪れ、学生に取材した回です。学生が、放射能に関する研究を「福島ならでは」の学びとして語ったのに対し、出演者が「福島大には触らせたくない」という趣旨の発言をした、と報じられています。

 九月一日、福島大学の佐野孝治学長が「本学を取り上げたインターネット動画について」と題する声明を発表しました。

 九月四日には松本洋平文部科学大臣が、九月八日には牧野復興大臣が、それぞれの記者会見で言及しました。動画そのものは九月一日に削除され、チャンネル側は謝罪しています。

 ここまでなら、ネット上でよくある「炎上と謝罪」の一件として片づけられそうです。

 しかし私は、この件をそう読みたくありません。

 というのも、ほぼ同じ週に、日本学術会議が「ALPS処理水の海洋放出の影響評価と課題」という見解を公表しているからです。日付は九月三日。動画が問題になり、大学が声明を出したのと、まったく同じタイミングでした。

ALPS処理水の海洋放出の影響評価と課題(日本学術会議) https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf2/kohyo-26-k260903.pdf

 偶然の並びです。けれども、この二つの文書は、驚くほど同じ問題を扱っていると私には見えます。

 科学的に正しい答えを出すことと、その答えが社会に受け取られることは、別の仕事だという問題です。

 以下では、時系列の整理から始めて、大学の声明の作法、表現の自由という論点、トランスサイエンスという枠組み、学術会議の見解、そしてサイエンス・メディア・センターの役割まで、順に考えてみたいと思います。センシティブな主題ですので、誰かを断罪するためではなく、次に同じことが起きたときの備えとして書きます。

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