「黄金時代」と名づけられた解体——ホワイトハウス科学報告書『Science: A New Golden Age』を読む

ホワイトハウスが7月、104ページの科学政策報告書『Science: A New Golden Age(科学 新しい黄金時代)』を公表しました。1945年のヴァネヴァー・ブッシュ報告を強く意識した題名です。大学から個人研究者へ、合意型の査読からの脱却、AIへの集中投資。診断の一部は的確です。しかし同じ政権が科学予算を大きく削っています。報告書の中身と、科学界の反応を読み解きます。
榎木英介(カセイケン代表) 2026.08.02
サポートメンバー限定

 本記事は、毎週発行しているメールマガジンで収集したニュースを中心に、科学技術政策関連ニュースを解説します。毎週日曜日に発行予定です。今回は先ごろ閣議決定された第7期科学技術・イノベーション基本計画について深掘りします。

 メールマガジンの購読は以下から。

 メールマガジンに掲載した多数の記事から、一部の記事を厳選し、以下に掲載しています。

***

「終わりなきフロンティア」の続編を名乗る文書

 7月、ホワイトハウスの科学技術政策局(OSTP)が、大統領あての報告書を公表しました。題名は『Science: A New Golden Age』。日本語にすれば「科学 新しい黄金時代」です。

 この題名を見て、科学政策に関心のある人なら誰でもある文書を思い出すはずです。1945年、ヴァネヴァー・ブッシュがトルーマン大統領に提出した『Science, the Endless Frontier(科学 終わりなきフロンティア)』。米国立科学財団(NSF)を生み、戦後八十年の米国の科学体制の設計図となった、あの報告書です。

 実際、新しい報告書は最初からそれを名乗っています。著者であるOSTP局長のマイケル・クラツィオス氏は、大統領への送付状をこう書き出しました。「81年前、フランクリン・D・ローズヴェルト大統領はヴァネヴァー・ブッシュに手紙を書き、第二次世界大戦後のアメリカの科学事業を再編する仕事を託しました」。つまり、ローズヴェルトとブッシュの関係を、トランプ大統領と自分に重ねているわけです。

 私はこの報告書を、AIのアシストを借りて読みました(とても自力では読めない…)。本文が90ページ、これに20ページの予算優先事項メモが付いています。読み終えたときの感想を正直に書きます。複雑な気持ちになりました。

 書かれている問題の指摘には、うなずくところが少なくないのです。研究者が書類仕事に埋もれていること。若手が独立するまでの年齢が上がり続けていること。再現性の危機。論文数だけが増えて、分野を塗り替えるような研究が減っていること。どれも、日本の研究現場を見てきた者としても、他人事とは思えない話ばかりでした。

 それなのに、読後感が悪い。診断の一部が正しいことと、その診断を出している人が同時に何をしているかは、別の話だからです。

 報告書が何を言っているのか。科学界はどう受け止めたのか。そして、どこに問題があるのか。順に見ていきます。

 以下はサポートメンバーにご登録いただくと読むことができます。

この記事はサポートメンバー限定です

続きは、23046文字あります。

下記からメールアドレスを入力し、サポートメンバー登録することで読むことができます

登録する

すでに登録された方はこちら

サポートメンバー限定
「経済安保5割増」の中身を開けたら――内閣府1兆240億円要求と、AI...
サポートメンバー限定
修士に年280万円、博士は大学ファンド頼み――文科省8.7兆円要求の設...
サポートメンバー限定
「8.7兆円」に沸く前に――概算要求シーズンの歩き方
サポートメンバー限定
東大は「赤字」なのか——否定された報道と、否定されなかったもの
サポートメンバー限定
「実質合意」から「正式署名」へ——ホライズン・ヨーロッパ協定の中身を読...
サポートメンバー限定
「人社系のダウンサイジング」は、いつどこで決まったのか——8か月の経路...
サポートメンバー限定
三つの制度と「812校」——骨太が閣議決定でそっと書き足したもの 案か...
サポートメンバー限定
東京大学の改革は成功するか?