アカデミアを去る理由の半分は「上司」——ある国際調査が示すもの

指導教員との関係が、若手研究者を学界から追い出している――Nature誌が報じた国際調査は、そう示唆します(ただし無査読のプレプリントです)。本稿では論文を読み解いたうえで、そこでの「supervisor」を日本の「指導教員」とそのまま重ねてよいのかという論点を整理し、「育てても評価されない」日本特有の構造がハラスメントの土壌になっているのではないかという仮説を検証します。
榎木英介(カセイケン代表) 2026.06.03
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はじめに——「上司」が研究人生を左右する

 研究者を志して大学院に進んだ若者が、なぜ道半ばで学界を去るのか。その理由として、研究費の不足や雇用の不安定さが語られることは多いものです。しかし、それらと並ぶ、あるいはそれ以上に重い要因が「指導教員との関係」だとしたら、どうでしょうか。

 2026年6月1日付のNature誌は、「監督体制の不備が、若手研究者を学界から追い出している」と題する記事を掲載しました。

 この記事が紹介しているのは、スペインのバスク自治大学(UPV/EHU)の研究者らが中心となり、65カ国2,604人の若手・元研究者を対象に行った大規模調査です。プレプリントサーバーbioRxivに2026年5月22日に投稿されました

 最初に重要な注意を述べておきます。この論文はプレプリントであり、査読を経ていません。 専門家による検証や修正のプロセスを通過していない「投稿前」の段階の研究です。後述するように調査手法にも限界が指摘されており、数値を確定的な事実として扱うことは避けるべきです。

 もう一つ、本稿が正面から扱いたい論点があります。この論文の主語である「supervisor」を、日本語の「指導教員」とそのまま等号で結んでよいのか、という問題です。実はこの一見細かな訳語のずれにこそ、日本の大学院が抱える問題の核心が潜んでいます。

 それを踏まえたうえで、今回の記事では、「日本では学生を育てても評価されず、指導のインセンティブが存在しない。だから他国よりも学生がハラスメントを受けやすいのではないか」という仮説を検証していきます。私が常々思っていることです。

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