科学と社会の接点を読む〜2025年12月第2週版
AI、大学、研究基盤をめぐる政策判断が同時進行した一週間
本稿では、メルマガScience Communication News No.1154から特に重要な20本を選び、「科学と社会の接点」という視点で整理します。 メルマガ購読は以下から。
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【無料版】政策・制度の変化を読む10本
1.国立大学授業料値上げが示す高等教育政策の限界
国立大学で授業料値上げが相次いでいます。表向きは「大学の経営判断」とされていますが、背景には運営費交付金の長期的な抑制があります。物価高や人件費上昇の中で、教育研究基盤を維持するためのコストが学生負担に転嫁されている構図です。高等教育を公共財として支えるのか、個人投資として自己負担を求めるのかという政策判断が、明示されないまま進んでいる点が問題です。
2.国立大学病院の経営危機と医療・研究政策の分断
国立大学病院は高度医療、教育、研究という三つの役割を担っていますが、その多くは採算が合いません。診療報酬だけで支えられない機能を、大学病院は長年担ってきました。しかし近年、経営悪化が顕在化し、教育研究へのしわ寄せが懸念されています。大学病院を単なる医療機関として扱う政策設計では、この問題は解決しません。
3.研究セキュリティ問題としての大学研究室侵入事件
北海道大学の研究室侵入事件は、研究セキュリティを「情報システム」だけで考える危うさを示しました。研究室という半公共空間の管理、人的セキュリティ、個人情報保護は、国際共同研究が進むほど重要になります。研究環境の開放性と安全性をどう両立させるかは、今後の大学運営における重要な政策課題です。
4.大学院生の自死が示した研究労働の制度問題
東北大学医学系大学院生の自死を巡る訴訟は、研究者の労働環境問題を社会に可視化しました。研究活動が「自己研鑽」や「修行」として扱われ、過重な業務が黙認されてきた構造があります。研究力低下の背景には、人材を消耗させる制度設計があることを政策として認識する必要があります。
東北大学はかつて自死事例が頻発したこともあり、ブラック企業大賞を受賞したことがありました。今回の自死は、この不名誉受賞から間もないころのことです。
そのころより状況は改善しつつあるとは言いますが、人を大切にする組織になるべく、取り組みを加速するべきだと思います。
5.AI適正利用指針案にみる日本型AIガバナンス
内閣府が公表したAI適正利用指針案は、日本型AIガバナンスの基本的枠組みを示すものです。ただし、研究・教育現場での具体的運用や責任分担については、なお不明確な点が多く残されています。AIを推進するだけでなく、失敗や誤用の責任をどう制度化するかが、今後の実効性を左右します。
6.AIと個人情報保護法改正の政策的意味
政府はAI活用を念頭に、個人情報保護法改正の概要を示しました。研究データや医療情報の利活用促進と、個人の権利保護をどう両立させるかが焦点です。法制度が技術の後追いになる中で、最低限のルールを先行して示すことの意義は大きいと言えます。
まだ政府のページには改正案の情報が出ていないようなので、出次第深掘りしたいと思います。
7.AIによる雇用変化と科学技術政策の責任
AIによる雇用影響は、日本でもホワイトカラー層に及び始めています。楽観論が根強い一方で、再教育や職業移動の制度整備は十分とは言えません。科学技術政策は産業振興だけでなく、社会的影響への備えも含むべき段階に入っています。
8.EUのAI政策に見る規制と研究基盤の両立
EUはAI法による規制と並行して、AI科学のための仮想研究機関を整備しています。安全性確保と研究力維持を同時に進める姿勢は、日本にとって重要な示唆を与えます。規制が研究基盤を弱体化させない設計が鍵です。
9.中国の研究投資拡大と国際競争
中国は基礎研究への投資を国家戦略として拡大しています。論文数や研究人材の層の厚さは、日本との差を広げつつあります。猛追どころか、すでに抜かされて久しいわけで…。日本の研究政策を考える上で、比較の視点は不可欠です。
10.米国の量子・AI研究投資に学ぶ国家戦略
米国エネルギー省は量子・AI研究への巨額投資を継続しています。基礎研究を安全保障や産業競争力と結びつける明確な戦略が存在します。日本との差は投資額だけでなく、意思決定の一貫性にもあります。