科学が政治に征服された国〜ハンガリーの16年と再建への道

ハンガリーで2026年4月の総選挙により、16年続いたオルバン政権が終焉し、マジャール・ペーテル首相率いる新政権が5月に発足しました。オルバン政権下では中央ヨーロッパ大学の追放、科学アカデミーの研究ネットワーク剥奪など、科学への政治介入が深刻化しました。新政権は科学・技術専任省庁を設置し、再建への姿勢を示しています。解剖率の高さや外国人医学部教育でも知られるこの国の歩みは、日本にも示唆を与えます。
榎木英介(カセイケン代表) 2026.05.24
サポートメンバー限定

 本記事は、毎週発行しているメールマガジンで収集したニュースを中心に、科学技術政策関連ニュースを解説します。毎週日曜日に発行予定です。今回は先ごろ閣議決定された第7期科学技術・イノベーション基本計画について深掘りします。

 メールマガジンの購読は以下から。

 メールマガジンから記事をピックアップし以下に掲載しています。

 本ニュースレター購読は以下から。無料で登録すると、メールで記事が届きます。有料登録すると、より深い考察が読めます。

***

 今回の記事では、メルマガでピックアップした記事のなかから、ハンガリーの科学技術政策についてとりあげたいと思います。

 病理診断を専門とする私にとって、ハンガリーはひとつの特別な意味を持つ国です。世界の解剖率(病院内で死亡した患者を剖検する割合)を比較した研究によれば、ハンガリーはかつて100%近い解剖実施率を誇っていました。

 1938年から1951年のハンガリーの解剖率は100%に達しており、1992年から2002年においても68.9%を維持していました。同時期のフランスが3.7%、アメリカが12.4%であったことを考えると、この数字の突出ぶりがよくわかります。日本でも解剖数は1985年の4万680件をピークに、2022年には6557件まで減少しています。ハンガリーの剖検文化は、医学教育と診断精度の両面において、欧州における特異な存在感を放っていました。 Wiley Online Library

 また、ハンガリーの医学部は外国人留学生の受け入れでも知られています。セーメルワイス大学(ブダペスト)では1983年からドイツ語プログラムが、1989年から英語プログラムが開始されており、40年以上にわたって国際的な医学教育を提供してきました。現在、医学部への入学者の半数以上が留学生であり、英語課程で約30%、ドイツ語課程で約25%の学生が学んでいます。日本を含む世界各国の医学生が、EU基準の医学教育を受けるための選択肢として、ハンガリーは長く機能してきました。 Times Higher EducationSemmelweis Egyetem

 数学・物理・医学でのノーベル賞受賞者を輩出してきた知的土壌とあわせて、ハンガリーは人口規模(約1000万人)であることを考えると、とても豊かな科学的遺産を持つ国だといえます。

 そのハンガリーで今、大きな政治的転換が起きています。

この記事はサポートメンバー限定です

続きは、3997文字あります。

下記からメールアドレスを入力し、サポートメンバー登録することで読むことができます

登録する

すでに登録された方はこちら

サポートメンバー限定
「経済安保5割増」の中身を開けたら――内閣府1兆240億円要求と、AI...
サポートメンバー限定
修士に年280万円、博士は大学ファンド頼み――文科省8.7兆円要求の設...
サポートメンバー限定
「8.7兆円」に沸く前に――概算要求シーズンの歩き方
サポートメンバー限定
東大は「赤字」なのか——否定された報道と、否定されなかったもの
サポートメンバー限定
「実質合意」から「正式署名」へ——ホライズン・ヨーロッパ協定の中身を読...
サポートメンバー限定
「黄金時代」と名づけられた解体——ホワイトハウス科学報告書『Scien...
サポートメンバー限定
「人社系のダウンサイジング」は、いつどこで決まったのか——8か月の経路...
サポートメンバー限定
三つの制度と「812校」——骨太が閣議決定でそっと書き足したもの 案か...