学術界の母親たちはなぜ消えるのか——デンマークの大規模調査が示す「育児ペナルティ」の実態と処方箋

2026年3月、Nature 誌がデンマークの大規模研究を報じました。学術界で母親になることは、女性研究者のキャリアを男性の倍損なうという研究です。原因は意欲の差ではなく、育児負担の構造的な非対称性です。解決策として期待された政策の多くには逆説的な限界があり、問題の根深さを示しています。
榎木英介(カセイケン代表) 2026.04.05
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「態度は変わる。行動は変わらない」

 2026年3月27日、学術誌 Nature に一本のニュース記事が掲載されました。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの研究センター(Centre for Economic Performance)が公表した大規模分析を伝えるもので、その内容は読む者を重くさせます。

 「デンマークでは、男性も女性も育児休業を取るよう多くのことが行われてきました。育児の責任は均等に分かち合うべきだという考え方も変わりつつあります。しかし行動が変わるのは、態度が変わるよりもずっと遅いのです」

 コペンハーゲン・ビジネス・スクールの経済学者、ソフィー・カイロ氏のこの言葉は、論文の核心を一文で言い表しています。

デンマーク研究の概要

 今回の分析(Cairo, Ivandic, Lassen, Tartari, CEP Discussion Paper No. 2160, 2026)は、1996年から2017年にデンマークの大学のPhD課程に在籍した1万3,347人を対象にしています。国家行政登録データベース、出版履歴データベース(エルゼビアのScopus)、そして育児や仕事と生活のバランスに関する大学独自のアンケートを組み合わせた大規模なものです。

 第一子誕生後8年の時点で、女性が大学に雇用されている確率は、子どもを持たなかった場合と比べて29%低下しました。男性の場合は14%の低下にとどまっています。デンマークは有給育児休暇と補助付き保育が整備された国です。それでも、これほどの格差が生じています。

 「アカデミアにおける母親の3人に1人が、母親になったことをきっかけに学術界を去る」——これが現在の実態です。

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